第八回 ついに巡り合う、味の饗宴 前篇
木の影が長くなる頃、私たちは山を降りた。
決して小さくないかごの中には、トリュフが目一杯入っていた。幸運だっ
た。元締めが特別な許可を得てくれたので、解禁直前の山に入ることが出来
たのが幸いしたのである。
私は彼ら、地元で専門にこのキノコを採る人たちに、純粋にトリュフだけ
の料理があるかと何度も聞いた。たとえば、刺身にして皿に並べたり、ポテ
トみたいに丸ごと煮こんだり、バターでさっといためたり。
答えは、ノーだった。イタリアには生で食べられる卵型のキノコがある
が、それは若いうちだけだという。
よし、と元締めが言った。それほどご執心なら、われらの料理を食べてい
ただこう。なあにこれだって山の幸の一部。銀のナイフで切り、金の皿に盛
らねば美味しくないというものじゃない。われらの一品をミケーレに作らせ
よう。
私たちはどやどやと、坂の途中にある村のレストランに入っていった。内
部は暗く、すでに夜。山小屋風のランプが、天井に届くあたりにかけられて
いて、オレンジ色の光を投げかけていた。
元締めが、何か言った。シェフが薄く笑った。そしてシェフは、黒いブラ
シでトリュフの表面を丹念にみがいていき、やがて無雑作にざくざく切っ
た。タマネギやバタータ(ポテト)を扱うのと同じ手つきだった。
シェフ・ミケーレは、地卵を割り、中身をボールに落としこんだ。そ
の瞬間からだ、魔法の時間が始まったのは。
まず、何かが私の顔を打った。匂いもなく、風のような動きもなく、しか
し劇的な変化が起こる予兆。
烈しいスコールがくる直前、一瞬だけ、密林は静まりかえる。でもそれは
静止ではなく、時空のひずみに近いものが、立っている生き物を正面から叩
く。
次に襲ってきた、重く深い匂いの饗宴が。
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