第七回 イタリアの山奥でついにトリュフを 後篇
私の目にも、穴の底にトリュフらしきものがあるのが分かった。
達人は、犬の首輪を押さえた。そして引き戻し、ベストのポケットから取
り出した乾燥肉を犬に与えた。
達人は専用のスコップで、丁寧に掘り進んでいった。木から太い根が斜め
に走っている。その枝分かれした部分に、指の先ほどの白いかたまりがあっ
た。そのごく一部をつまみ取り、鼻先に持っていく。
うんと頷き、指先を私にも嗅がせてくれた。
微妙な匂い。
私は中学生の頃を思い出した。女子生徒だけが群れている所へ急に入っ
ていくと、得も言われぬ、ドキッとさせられる匂いがしたものだ。それに似
ていた。
白いトリュフだよ、ここでは冬トリュフというけどね、このままにしておく
と、大きくなる、そう言って達人は、土をかけ戻した。
黒いのが夏トリュフだそうだ。
この稿を書いている今、東京は青山のスーパーに夏トリュフの第一便が届
いた。六月の三日だ。一日に解禁されたものが、もう送られてきているので
ある。すごい時代になったものだと、私は目を丸くしている。大きさによっ
て違うけれども、一粒、約三千円の値がついていた。
間もなく、ピンポン玉大の黒いトリュフが土中から出てきた。深さ、二十
センチばかりの所にあった。
マツタケ狩りでもそうだが、一つ見つかると、まるで連鎖反応を起こした
かのように、次から次へと発見出来るものだ。トリュフもまったく同じで、
あっという間に七個掘り当てた。どれも夏トリュフだった。
あのなぁ、と達人は顔をしかめた。この時期であっても、白があるはず
だ、いや、なければならぬ。
犬を連れて、達人は沢の方へ下りた。上を見たり、木立をすかすようにし
て斜めにうかがったりした。
どんどん歩いた。
また登る。木立の間から、村の赤い屋根が見えた。
達人は、ポプラの下に座りこんだ。
広い範囲を掘った。そして犬を呼んだ。
犬は、掘った部分を嗅いでいき、一点でさっと緊張した。
「ようし、いい子だ」
達人は犬に褒美を与え、私にスコップを渡してくれた。
木の根をかきわけるようにして掘った。雑に突っこんで、折角のトリュフ
を傷つけたくなかった。
そして掘り当てた。白だった。表面についている黒い土が、美女の化粧に
見えた。
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