第七回 イタリアの山奥でついにトリュフを 前篇
元締めは、その道のプロ、トリュフを掘って生計をたてる専門家を呼んで
くれた。ラゴットを連れ、私は彼と山にわけ入った。
採取人は、チロリアンに似た黒い帽子をかぶり、少し長めの黒いベストを
着用していた。それが制服だという。トリュフは高価だから、採取許可を持
っているものを、ひと目で見分けられるようにしているのだろう。
道は、右や左へ曲がりつつ、だらだらと登りになっている。三十分ほど走
った所で、この辺りでやってみますかと、トリュフの達人は車の頭を林へと
突っこんだ。
達人は、太いパイプの先を斜めに切った道具を持っていた。それが、トリ
ュフ専用のスコップだそうだ。
ヨーロッパの林や森の中は、下草が密に生えていないので、非常に歩きや
すい。鎌で木や草をなぎ払いながら進まねばならぬ日本とは大違いである。
これは、羊を放牧するためだ。イタリアでは、ルーマニアなどから出稼ぎの
労働者がやってきて、山で羊を追い、リコッタチーズなどを作っていた。
達人は、木を一本ずつ調べ、時には幹に触れてみたりした。その間、ト
リュフ犬は、つかず離れず、適当についてくる。
どうやら、ココ掘レ、ワンワンではないらしい。犬が地面を嗅ぎ、貴重な
キノコの匂いを嗅ぎ当て、主人に掘らせるのではないようだった。これは想
定外だった。
やがて達人は、やや太めの木を選び、その下を掘り始めた。黒い腐葉土が
現われ、細い木や草の根が入り組んでいるのが見えた。深さ十センチほど掘
ると、犬を呼んだ。犬は、掘られた部分に顔を突っこみ、熱心に嗅いだ。だ
が、ほどなく後退し、自分の胸を舐め、毛づくろいし始めた。
達人は、掘り起こした土を元へ戻し、足で軽く踏みつけた。そして、次の
木の下にしゃがみこんだ。
犬は、鼻先を押しつけるようにして嗅いだ。緊張が、こちらにも伝わって
きた。数秒の後、犬は両の前脚で穴の底を掘り始める。後ろにとばされた土
が乾いた音をたてた。
何かある!白い!
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