連載 ムツゴロウの「食べて幸せ」

 

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第六回 たどり着いたトリュフの村 後篇

 店内は超満員。熱気むんむん。食事を楽しむ美男美女で、はち切れんばか
りだった。もちろん私は、前菜としてポルチーニのバター焼きを頼み、パス
タもポルチーニを注文した。
 私が強く推したので、テキサス男も前菜に名物キノコを注文したが、運ば
れてきたものを半分ほど食べると、これは食べものじゃないと涙目になっ
た。そして、あえぐように、肉、肉と言った。脂泡立つステーキこそが、彼
が食事として認定する代物だった。
 ともあれ、この旅で私は、本格的にポルチーニにぶつかった。行く先々で
賞味し、後半生が豊かになった。そのいきさつは、後でくわしく語りたい
が、芳醇なポルチーニを前にすると、先ずあのテキサス男を思い出し、おか
しくなってしまう。
 次の日から、私は車をチャーターして山に向かった。ミラノからスイスま
では指呼の間である。コモ湖のほとりに出て、トリュフの村を訪ね歩いた。
 そして翌年、いよいよ私は、トリュフを掘るために北イタリアの山村に出
向いたのである。海底の宝捜しをするのと同じくらい、私は興奮し、勇み立
っていた。
 季節は夏だった。私は日本を発つ前に、イタリア料理の本などを調べ、夏
トリュフと冬トリュフがあるのを知っていた。そして、夏トリュフがあるの
だから、夏でもトリュフ狩りをしているだろうとタカをくくっていた。とこ
ろが、村で会った最初の一人が、悪い時期にきたなあ、丁度、採取禁止の月
なんだと言った。残念、そんなことは聞いていないと顔をしかめてがっかり
すると、男は、人のよさを丸出しにして、なんとかなるかもしれないよ、元
締めの所に行ってみたらと言い、差し出した紙に地図を描いてくれた。
 その元締めの家は、巨木に囲まれ、敷地も広く、堂々としていた。そし
て、探し求めたトリュフ犬を飼育していた。
 それはテリアであり、ヨーロッパ各地で少しずつ違った特徴を固定し、ウ
エストハイランドテリアとか、ヨークシャテリアとか名づけられたグループ
に属していた。山を越えたフランスでは、ベルジェという小粋な犬がいて牧
羊犬として使われているが、区別がつかぬほど似ていた。
 トリュフ犬としての訓練は、生後八か月目ぐらいから行う。トリュフのエ
キスを染みこませた餌を土中に埋め、匂いを嗅がせ、掘り出すことを教える
のである。
 元締めが、調教中の若い犬を持っていたので、見よう見まねで私もやって
みた。犬は、目をらんらんとさせ、前脚で掘ってくれた。
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