連載 ムツゴロウの「食べて幸せ」

 

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第六回 たどり着いたトリュフの村 前篇

 イタリアでは、トリュフ探しに犬を使う。そう聞いた途端に腰が浮いた。
調べると、ミラノへの便に空きがあった。次の日、私は空の上だ。
 空港で、小さなホテルを予約した。クレジットカードを振り回してチェッ
クインし、夜までぐっすり眠った。腹が空いたのでロビーに降りて行くと、
暗くなっていた。
 フロントで、レストラン情報を仕入れた。近くにある、おいしい店を教え
てくれ。ここはうまい、間違いないと、細面のイタリア野郎が地図を描いて
くれた。すると、後ろから肩を叩かれた。大男が立っていた。
「おれはテキサスからきた。アメリカ人だ。イタリア語がまったく分からな
い。一言もだ。今、そこで聞いていると、リストランテという言葉がとびこ
んできた。お前、一人なんだろう。食事に行くのだろう。おれを一緒に連れ
てってくれよ」
いいけど、と私はしばし間を置いて言った。
「おれだって片言だ。正式に勉強したことは一度もない。しかし、メニュー
ぐらいなら読める。それでよければ同行しよう。食事は、一人よりも二人
だ。テキサスへは何度か行ったし、友人もいるよ」
 レストランは、すぐ近くにあった。道に面していて、かなりだだっ広い。
でも、カーテンが閉めてあり、中はのぞけなかった。
 ドアを開けると、光があふれていて、正面に特別な台がしつらえられてい
て、白いキノコが山積みされていた。
 ポルチーニ!イタリアのマツタケ。私は、目を丸くし、舌なめずりをし
た。そのキノコについて、何度、小説で読んだことか。その季節、解禁の日
には、皆でポルチーニ狩りに出かける。腕にかけたバスケットは、見る見る
一杯になり、その夜は、どの家もお祭り状態だ。かおりが台所から流れ出
し、村全体がポルチーニの芳香で包まれる。そのような描写をたくさん読ん
だ。
 黒服のギャルソンが、本日、ただ今解禁になりまして、それで混んでまし
て、満席、お待ちいただくことになりますがと言った。
 私は、ホテルの名を出した。ここが一番おいしいと聞いてきたとつけ加
え、チップを渡した。すると、たちまち入り口近くに新しいテーブルが出現し
た。
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ムツゴロウの「食べて幸せ」は月刊「健康医学」(健康医学社発行)に連載しています。

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