連載 ムツゴロウの「食べて幸せ」

 

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第五回 フランスのブタ、アフリカの秘茸。 後篇

 アリヅカに住むアリだったら、世界中で食べる。これは、まずくはない。
塩を加えてフライパンで炒り、脚と羽根を除いてあるものが、時期になると
市場で売られている。百円出すと売り手がびっくりし、新聞紙でこしらえた
袋にどっさり入れてくれる。バッタより小味がある。強いて言えば、長野の
方で珍重されるハチノコに近いかも知れない。だが待てよ、と思う。漁師の
家でゴロゴロしていると、売り物にならない小魚をみりんと醤油で味つけ
したものが、酒のさかなとして出てくる。これは、うまい。後をひく。アリ
ヅカのアリは、きちんと調理すれば、その小魚に匹敵すると思う。それに触
発されていろんなアリを食べてみたが、蟻酸を持っているものが多く、食用
には向かなかった。アリクイなど、アリを好む動物たちが、シロアリの仲間
を好むのがそれでよく分かった。
 かつてのアリヅカは、南の国ではごく普通にあった。巨大な土の塔が林立し
ているのは、荒野の風物詩でもあった。ところが、耕地の拡大と住宅の建設
により、急速に消え始めているのは実に悲しい。
 アリヅカを作るのは、もちろんアリだ。いい土を選んで持ち帰り、唾液を
混ぜて仕上げていく。アリが選んだこの土がいいのである。アフリカ人たち
は、アリヅカを壊し、砕いて水で練り上げ、住宅の壁にする。そうすると、
どんな嵐がきてもびくともしない。
 アリヅカのアリたちは、雨期がやってくると、羽化していっせいに飛翔す
る。ブッシュマンのニカウは、カラハリ砂漠では、地平線に黒雲が現われる
時期、アリヅカに砂をかけ続けるのだと言った。すると、アリが雨と間違え
て外に出てくる。インドでは、藤で編んだそれ用の細いかごがあった。そ
れに砂利を入れ、ゆすって雨の音をたてるのだ。南米には、直径十センチ
弱、長さ一メートルほどの草の茎に植物のたねを入れ、ゆすって音を出す道
具がある。インディオたちは、それを楽器としても使用している。
 そのアリヅカからキノコが生える。白くて大きいのだ。
 当然と言えば、当然。アリたちは、地下に木の葉や草の葉を持ちこみ、キ
ノコを栽培している。キノコ園を経営し、伸びると片っ端から食べて暮らし
ている。そのアリたちが羽化してしまうので、キノコは伸び放題になり、地
上に出てくるのである。
 オオアリタケ。私は、それに巡り会えた。幸運だった。そのサシーミは、
トリュフでかおり付けしたフグの薄造りだった。
 すぐさま、台所に立った。
 ガーリック。そして、こしょう。なにしろ大きいので、一本で、アワビの
ステーキみたいな料理が三人前出来た。レモンをかけた。好き好きで、パセ
リを用意した。味はマツタケ以上だった。
 私は、これは未来産業だと思う。地球、最後の秘茸。アリヅカから失敬し
てくれば、菌は容易に入手出来るはずだ。アリヅカを掘って、培養してみた
いと思っているが、この夢はまだ果たしていない。
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ムツゴロウの「食べて幸せ」は月刊「健康医学」(健康医学社発行)に連載しています。

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