第三回 トリュフ、トルッフル、松の露 後篇
トリュフ。
国によっては、トゥリュッフル、トゥルフ、などど発音しなければなら
ず、それでも通じないので、指で文字を押さえたりしたものだ。正真正銘の
キノコ。木の子とはよく名づけたもので、この仲間は、木に寄生する。茸も
またいい漢字であり、キノコには耳の形をしたものが多い。
若い頃、知識としては知っていたが、かおりを嗅いだこともなかった。そ
こで、植物のことなら何でも知っている先輩、秋山智弘さんに訊いてみた。
「ショウロ科に属するキノコで、ま、味は違うけれども、海岸の松林など
で、日本でも同じ仲間がとれるし、食べられてもいるんだよ。だから、松
露、だけどもね。さて、ヨーロッパのトリュフだが、日本でも長野の方で、
採集された記録があるんだよ。これは無いわけがないよ。キンコンキンだ
からね。森の成り立ちには、ぜひ必要だと思うよ」
多分、四十年以上前だったろうが、キンコンキン、という言葉の響きが面
白くて、今でも耳に残っている。
キンコンキンは、菌根菌である。このキノコの類は、菌糸を伸ばし、木の
方も土中に根を伸ばし、菌糸と根が一体になり、栄養をギブアンドテイクす
る不思議な生活をしているのだ。とにかくキンコンキンであり、だから土中
に存在している。
世界三大珍味と言うからには、美味しいに違いない。百大とか、万大とか
だったら、嘘もホラも混じっていようが、三大である。エンジェルホールか
ナイアガラか、はたまたイグワスの滝か。滝だったらその内の一つぐらいで
しかるべきであり、もし評判通りでなかったら、テーブルを引っくり返すべ
きであり、レストランの看板に小便をかけるべきだ。
本が売れるようになり、いくらか生活に余裕が出来始めた頃、私はレスト
ランと称するものに出入り出来る身分になった。むろん、何も分からないの
だから、固くなっていて、でも緊張を悟られないように微笑など浮かべ、メ
ニューに目を走らせた。
そして、トリュフ風味という料理を発見し、エーイ、これだと注文した。
だがそれは、何かあるぞ、これ何だ、という感じでトリュフが参加している
だけで、おーい、どこにいるんだと叫びたくなった。
私のトリュフへの旅は、そのあたりから出発したのである。
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