連載 ムツゴロウの「食べて幸せ」

 

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第十一回 サケの味は平均値 後篇

 サケが三尾以上手に入ると、私はまず胃を取り出し、前後を糸でしばる。
胃の上部に鋭いナイフで切り目を入れる。これがコツだ。サケは泳ぎな
がら小魚やエビなどを食べているので、胃をそのまま火であぶると、爆発し
てしまうからだ。
 焚火からオキを掻き出す。その上にしばった胃をのせる。切れ目から、す
ぐさま汁が吹き出してくるが、そこに醤油を注ぐ。これは北洋漁業の漁師か
ら教わった料理だが、新鮮なサケが手に入る北の無人島ならではの、珍味中
の珍味だった。
 頭部、その前面に、軟骨の組織がある。北海道ではヒズと呼ばれていて、
食通が好む部分である。ヒズは、なますにする。島にはアイヌネギと呼ばれ
る山菜―ギョウジャニンニクがたくさん自生していたので、ヒズと酢のも
のにした。
 切身の塩焼きで、最も美味しいのは、私は皮だと思う。ところが、これを
嫌う人は意外に多く、同居していた若い人たちの約半数は、箸で遠くへはね
のけてしまった。つくづくもったいないと思う。他よりも、いま流行のコ
ラーゲンなどがたくさん含まれているし、ようし、皮好きにしてやろうと思
った。
 どさりとサケが手に入った時、わざと荒っぽく皮を剥いだ。それを短ざく
に切っていく。かき揚げにしてソバの上に置くと、ひときわ美味しい時間が
持てた。そして若い人たちの好みに合わせるため、皮を唐揚げにし、特製
のトマトソースに入れ、スパゲッティをこしらえた。これは好評だった。
 サケ、サケ、サケ―。サケに首まで浸る感じで日を送っていて、これは
不思議な魚だなと気づいたのである。そんな料理をこしらえても、サケは
そこそこいい味を出してくれる。鍋。塩焼き。ソテー。ムニエル。過ぎ去る一
日に感謝して食べる、一応の味に仕上がってくれる。しかし、平均点だ。美
味しさに感激し、しばし目をつむることはなかった。でも、もういいやと食
べ残し、ご飯の残りを香の物で食べるほどまずくはなかった。
 私は、幕の内弁当を思い出した。おかずとして、エビとサケがつきもの
だ。これは、万人がまあこんなものかと納得する平均値であるからではなか
ろうか。
 その逆になるが、高級な料亭、和食の達人などは、サケを食材として使い
たがらない。
 サケは、料理し易く、そして、料理し難い魚だと言えよう。
 やがて私は、島の対岸、霧多布にある『気晴し』という料亭を知るように
なった。ここはかつて、ニシンで大もうけしたお大尽たちが豪遊したところで
あり、料理にもその頃の名残りが色濃く、普通では手に入らぬ料理を並べて
くれた。当時はまだ捕鯨が行なわれていて、鯨の尾の身まで食べることがで
きた。そこで私は、サケのバター焼きを食べ、その美味しさにショックを受
けた。
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ムツゴロウの「食べて幸せ」は月刊「健康医学」(健康医学社発行)に連載しています。

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