連載 ムツゴロウの「食べて幸せ」

 

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第十回 無人島でサケがあふれた 後篇

 さて、無人島で、私たちは親子三人で暮らしていたので、おかずとして、
半身でも余ってしまった。一日、三尾や五尾になると、ちょっと困ってしま
った。
 そこで、みそ漬けにした。みりんを加えたみそを、切身の両面にたっぷり
塗り、容器に入れて保存するのである。これを焼いて食べると、生よりも美
味だった。みそが焦げたかおりが何とも言えなかった。
 骨がついている中落ちは、軽くゆで、スプーンで身を削ぎ落とした。これ
は、女房の知恵であり、それをフライパンで炒り、ゴマを加えると立派なふ
りかけになった。
 いわゆるトロ、腹部、砂ずりの部分は、遠火であぶり、ほぐして瓶に貯蔵
した。もちろん、少しだけ塩を加えてもよし、それは好き好きである。
 これは、せわしない日に役立った。熱いご飯の上に、大さじ二杯分をばら
まけば、それだけでお代わりが出来た。お茶を注いでもいいし、かおり高い
野菜をちりばめてもいい。
 その頃の名残りで、私は今でも、冷蔵庫の中に、サケの身をほぐした瓶詰
めを常備している。食べ方は、少し変化していて、ゆでた野菜を加え、少量
のコチュジャンを入れる。この韓国の奇跡のみそは、大さじ一杯入れるとビ
ビンバになり、サケの味が死んでしまうので、混ぜて、ほんのり赤みがさす
くらいに抑えるのがコツである。
 地中海料理を得意とするシェフに、ノルウェー料理も教えてもらった。
 それは新鮮なサケを三枚におろし、身の部分に、厚さ一センチくらい、た
っぷり塩を塗るのである。それを冷暗所に二十四時間保存し、翌日、海水と
同じくらいの濃度の水に浸けて、塩をもどすのだ。それを薄く切ると、まる
でスモークサーモン。
 後にノルウェーの港町で、同じ料理を食べた。もちろんレモンが添えられ
ていたし、ディルが山と盛られていた。グリーンペッパーなどがあれば申し
分ない。
 私は、この一見スモークサーモン風の切身で、野菜を巻いて、ナンプラで
食べる。野菜なんて何でもよろしい。レタスでもキャベツでも、キュウリの
細切りでもいい。水菜もいいし、ワラビの水煮でもいい。
 ただし、ベトナム産の由緒正しいナンプラを使うのだったら、レモンを加
えて、砂糖を少し混ぜるとよろしい。むろん、唐辛子も好みによって入れ
る。これは、ベトナム料理店で教えていただいたナンプラの上手な使い方で
ある。ライスペーパーならぬ、ムツ風サーモン春巻だ。
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ムツゴロウの「食べて幸せ」は月刊「健康医学」(健康医学社発行)に連載しています。

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