連載 ムツゴロウの「食べて幸せ」

 

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第一回 淡水魚の王、ピラルク 前編

 大河アマゾンには、その大きさにふさわしい巨魚、ピラルクが棲息してい
る。淡水魚としては世界最大だ。
 一体全体どんな奴だろうと、私はものの本を読み漁った。だが、巨大なも
のには伝説がつきまとうし、怪説奇説が入り混じり、いかにも本当らしい鮮
やかな伝聞で色づけされたりしていて、その正体は茫洋とし、とんと要領を
得なかった。中には、体長五メートル、一トンに達するというホラ話もあっ
た。
 美味しいのか、まずいのか。
 マグロみたいに、大トロがとれるのだろうか。ハガシはどうだ。いやいや、
淡水魚だから、白身ではなかろうか。
 こうなったらもう、自分で調べるしかなかった。そして、そのチャンスは
到来し、私はブラジルへ行けることになって、しかも三日間だけ、自由行動
の時間を得た。私は、出来たら釣ってやろうと思い、渋谷にある有名な釣具
店で、カジキマグロ用の仕掛けと竿を購入した。
 憧れのアマゾンに到着。中流にあるマナウスで、初めて大河を見た。
 それは川か、はたまた海か。茶色に濁った水がとうとうと流れ、海に似た
うねりまであった。私はその巨大さに打ちのめされてしまった。
 とにかく釣りだと、案内人をやとい、船を出して貰った。上流へはしるこ
と二時間ほど、人けがない草むらを発見し、そこで降ろして貰った。タンバ
キーという、市場で買った魚をハリにつけてほうりこんだ。
 待てど暮らせど、アタリはなかった。リールを巻いてみると、アジに似た
餌の一部が、何ものかにかじられていた。しかし、それを丸呑みにしてくれ
る大物はいないようだった。
 私は、自分を笑った。涯しない大河のほとりで、けし粒より小さな点にな
り、竿をだして巨魚を待っている……。まるでドン・キホーテ。度し難い道
化。
 笑うと、すっきりした。浮世のしがらみなんて、どうでもよくなった。
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ムツゴロウの「食べて幸せ」は月刊「健康医学」(健康医学社発行)に連載しています。

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