連載 ムツゴロウの「食べて幸せ」

 

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第十三回 御三家、キング、レッド、シルバー 後篇

 人生は不思議なものであり、強く思い続けていると、ある日、ひょいと実
現してしまったりする。私の二つの野望は、徐々にではあるが形になってき
た。
 まず、馬のために購入した牧草地の真ん中に、川幅五メートルほどの立派
な川が流れていた。そして、夏の終わり、そこにはサケがのぼってきて、オ
スとメスが並び、産卵の前のダンスをしていた。
 オオカミの取材でアラスカへ行ったとき、私はサケを釣りたいと思った
が、すべてに不慣れで、思いを遂げぬまま帰国した。
 しかし、いくらか情報を得てはいた。キングサーモンの超大物が釣れるの
は、アンカレジの近くにあるキーナイ半島の川であること、レコードクラス
になると四十キロを超すことなど。
 また、当然のことながら、キングにも時知らずがいて、海流にのって南か
らのぼってくるし、岸に最も近づくのはシトカの辺りだとも知った。それを
一本釣りでねらう猟師がいると聞いて見年が高鳴った。彼らは小船で沖へ出
て、たった一人でキングを追うのだそうだ。
 意気投合したアメリカ人は、サケを釣りに必ず帰ってこいと肩を叩いて笑
った。
「サケの味だって?おれはシルバーが一番だと思う。次がキングで、それと
並ぶ感じでレッドだよ」
 彼はそう言ったが、横で聞いていたスチーブは首を振り、齢知らずのレイ
ンボーだね、これが一番抜けている、と言った。それに比べれば、キングや
シルバーは横並びだよ、それぞれ長所があるが、優劣はつけ難いとつけ加え
た。
 アンカレジには、『熊五郎』という日本レストランがあった。ここのオー
ナーとも仲良くなったが、キッチンで働いていたのが、ホテルオークラの和
食レストランで働いていたMさんだった。
「アブラビレにとり憑かれましてね、とうとうこんなところまで来てしまい
ました。釣れたばかりのサケを、こう、ビューッとさばいてみたいと思った
んですね」
オークラの『山里』と言えば、格式の高いレストランだが、そこのシェフ
がアラスカまできて、ラーメンがメインの店で働いているのである。アブラ
ビレとは、サケ科の魚に特有の小さな背ビレのことを指している。
 レインボーの齢知らずとは、年齢が分からぬくらい大きなニジマスのこと
だ。
「去年、嘘じゃないからと、強引に誘われましてね、お客さんが持っている
小屋に行ったのですよ。そうしたらギンザケみたいに大きなニジマスが釣
れました」
天上の味だとMさんはつけ加えた。
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ムツゴロウの「食べて幸せ」は月刊「健康医学」(健康医学社発行)に連載しています。

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